2015年2月6日

女性技術者による座談会~魅力ある建設業の実現に向けて~

日 時:平成26年12月11日(木)10:30~12:00
場 所:富山第一ホテル  2階 桂の間
参加者:7名

■座談会内容

―建設業を志したきっかけ―

大愛副委員長
(本文中敬称略)
大愛 まず、建設業に入職されたきっかけや、何歳くらいで建設業の仕事に入ろうと思ったのかをお聞かせください。
安田 県立短大から今の会社に入社しました。入社前はすぐに退職するかな?と思っていたのですが、やっていくうちに仕事が楽しくなってきました。他県に出かけても工事現場を見るととても気になります。いまや職業病ですね(笑)。
筒井 私も県立短大の出身です。何を思って短大に行ったかというと「橋」を作ることに携わりたいと思っていたんですね。橋を見て、生コンを打ちたいと思ったんです。生コンは大好きですね(笑)。とは言いつつ舗装の会社に入社しました(笑)。
高見 私は高校の時に将来何をしようと考えた時に、「ものづくり」がしたいと思いました。人の力ですごく大きい土木構造物を作るということは素晴らしいですし、小さい頃からバックホウを見ることが好きで(笑)。それで、体力的に劣る女性でも建設業の中で男性と対等に仕事ができるのは監督業務かなと思い、大学では土木工学を専攻しました。ですから今は毎日仕事が楽しいです。

アルカスコーポレーション(株)
高嶋さん
高嶋 高校の頃進路をどうするかという時に“ビフォーアフター”という番組があって、「こんな仕事もいいかも」と。現場をやりたいというはっきりとした意志ではなかったのですが、とりあえず専門学校に入って、現在の会社に就職しました。最初は営業だったのですが今は現場の仕事をしています。現場は楽しいですね。
北川 私は石川高専出身で、両親も親戚も建設関係でいとこも石川高専なんです。高専で5年間学んで「就職して何をしよう」と迷っていた時に先生が「現場に行けば、設計から施工まで全部わかるから、そこから考えたらいいよ」とアドバイスされ「じゃあ現場に」という感じで就職しました。会社に女性の専務がいて、とても相談しやすく、「無理なときは無理と言っていいよ」と言ってくださいます。
大坂 北川さんと同じ石川高専出身で、私は環境都市工学科という前身が土木の学科です。石川高専を選んだのは、歩いて行ける学校が良かったのと(笑)、父が建設会社に勤務して橋の建設に携わっていて、そこで私も「橋か」と思ったんです。でも橋の現場だと全国に行くし地元志向も強かったので、結局地元で就職しました。今は主に現場のアシストをしています。

―女性が働く現場の状況―

大愛 皆さんは現場も好き、ものづくりが好き、他の現場にも興味があるということで、やりたかった仕事が今実現しているということのようですね。現場環境について、トイレや更衣室など、女性特有の問題で何かありますか? 朝日建設の社長が女子の更衣室に力を入れた、というお話を聞いたことがあるのですが。
筒井 現場用にキャンピングカーのような休憩車があって、中は四畳位の畳が敷かれていてテレビやトイレもあります。そういう設備の導入は積極的にやっていただいています。
大愛 そういったものを導入するということは、筒井さんの他に女性が何人も現場に出ているのでしょうか。
筒井 私が入社した時は女性が5名くらいいましたが、総務の方が退社されて、その後任に現場の方が事務についてという感じで、今は現場に出ているのは私ともう1人の女性です。
大愛 女性技術者はお二人なのですね。高見さんの現場ではどうですか?

(株)岡部
高見さん
高見 現在の現場は現場事務所と休憩所があり、女性専用と男性専用のトイレが整備されています。現場事務所には小さな更衣室を置き、女性作業員さんにも使っていただいています。先日見学してきた、近くの現場は国交省発注の女性技術者の登用を促すモデル工事で、女性専用のトイレが整備されていますし、更衣室も大きく、電気カーペットや衣類乾燥室も設備されています。私の担当している現場でも出来る範囲で良いと思った設備を取り入れています。
大阪 それって、男女関係なく快適ですよね。
高見 そうなんです。全体的に環境が良くなることが、女性が働きやすい環境に近づくと思います。国交省では今度、女性技術者の配置が必須要件の現場を発注するため、その先行施行工事として取り組んでいるそうです。
大坂 国が動いたら早いですね。私も新聞掲載の内容を見ましたが、ホットカーペットも敷かれていて、暖かそうで……冬場は寒いのでそういうことが大切ですよね。
高見 乾燥室もあるので濡れた雨具を乾燥室に置いておくことができ、休憩所が汚れにくいんです。あれはすごくいいなぁと思いました。
大愛 そのモデル事業は、他の企業に広がっていくでしょうか。
高見 モデル工事なのでこのような施設整備を行っていますが、会社としては現場の利益も大切なんですよね。どこまでそういった設備にお金を掛けられるかというのは各社で違うと思うんです。発注者からの指示で必ずやらなくてはいけない。そういう状態になってほしいと思います。
大愛 建築の方は民間の仕事が多いと思いますが、どうでしょう。高嶋さんは先ほどビフォーアフターで業界に興味を持ってというお話でしたけど、昨今は職人不足というお話も聞きますね。
高嶋 実は私はまだビフォーアフターはしたことがなくて。でも新築も楽しいですね、何もないところから出来上がるので。昨年は工事が多く職人さんも不足していて、自分たちで外壁を貼ったりしていました。そんな中で勉強をして1級建築士の資格を取得できたので余計にうれしかったです。忙しさが逆にプレッシャーになって頑張れたのかもしれません。
大愛 消費増税の駆け込みのような状況で昨年は忙しかったのでしょうね。同じく建築の北川さんはどうでしたか?

近藤建設(株)
北川さん
北川 当社は学校などの公共工事も手がけているのですが、他の現場と工期が重なると同じ時期に同じ作業をするわけですから、会社の中でも職人さんの取り合いになってしまいます。極端な時は人がいないから自分でやらなくては、となります。
大愛 職人さんにも指示を出さなくてはいけないですよね。
北川 最初の頃は職人さんに「お姉ちゃん、何言うとんがけ」と言われましたが、最近は顔なじみになってきて「いいから、やって!」という感じです。気難しい職人さんだと会社の先輩から「お前が頼んだらやってくれるので、お前が行け」と言われるんです(笑)。なので特別に男性であれば良かったということはありませんが、重いものを持ち上げたりする力がないのは事実です。

―女性の活躍―

大愛 女性が気の付くところとか、男性が重いものを持つとか、現場の中でも差別化ではなくて「やれる、得意なこと」を生かしていけたらいいのではないかと、私もそう思います。女性らしさも出したり、男性の力に頼ったりして、現場で上手く回っていけばいいですよね。安田さんは現場の若い技術者の指導もされたりもしますか。

安達建設(株)
安田さん
安田 なかなか難しいですね。私は積算や提出書類のチェックをしていますが、書類がまとまっていないときは「なんとかできるかな?」って優しく(笑)。若い子は共通仕様書や現場必携になかなか目を通さないんですね。私が先に答えを言ってしまうと若い子が育たないと思い、「この本に必要なことが書かれていますよ」と言って自分で調べさせるようにしています。
大愛 女性らしさを活かした良い指導だと思いますよ。
大坂 私も見習いたいです(笑)。答えを先に聞きたがる気持ちもわかるのですが、そこの教え方が難しいですよね。現場も分かっていないとできませんよね。
安田 今は自分が現場を持っていない分、遅れている現場を見ながら自由に動いています。積算をしているので現場の事は最初に頭に入っているわけです。積算はもう一人の女性と二人で照らし合わせています。
大愛 安田さんのところは女性二人で照らし合わせてやっているんですね。責任重大ですね。何もかも把握していないとできませんよね。
安田 私は多少現場を経験してからやっていますが、もう一人は現場を経験しないで始めているのですごく大変だと思います。
大坂 私は最初その状態でした。ですから現場を経験しないで積算をされてる方はすごいと思います。
安田 たまに提出前の書類を確認してほしいと言われて、パッと開いてあまりにもぐちゃぐちゃできちんと見る前に閉じてしまう書類があります(笑)。当日提出の書類だと仕方なく「持っていかれ」と言いますが……個人的にインデックスが綺麗に並んでいないのが嫌いで細かく指導すると「僕、ストレスがたまります」と言われました。
大坂 代わりに貼ってあげたり?
安田 しません(笑)。頑張って自分で貼っているようです。目に余るときは言いますが、極力意欲を失わさせないようにしています。
筒井 そういう男性はどうしてもそうしてしまうんですよ。
大愛 安倍政権が言う女性の活躍というのは、人手不足を女性で補おうということなのでしょう。女性が就職すれば人手不足は一時的にしのげるかもしれませんけど、人口減少の歯止めをかけるということには繋がるのでしょうか?職場と家庭の両立は難しいと思うのですが……。

嶋田建設工業(株)
大坂さん
大坂 私の先輩は2人の子どもを育てながら今も現場でバリバリ働いているのですが、子どもを夜7時まで預けているそうで、残業も6時までしかできない。でも仕事は多いので朝の4時に起床したり、子どもが寝てから自分のことをすると聞いて、私はそんなパワフルなことはできない!と思いました。その先輩のご主人も同業なのでお互いの理解があるのだと思います。
大愛 お互いの理解は大切ですよね。当社では、お父さん・お母さん・息子さん・娘さんがどんな会社で働いているのかを見ていただくために、奥さんや子どもさん、親御さんを会社にお招きして社内を見学したり、蕎麦・豚汁を食べたりという「感謝祭」を開催しました。それでも建設業に対する理解を深めてもらう事は難しいかもしれませんね。家族にはこの仕事をさせたくないという厳しい意見を言う社員もいます。
高見 その意見は分かります。子どもがいたら、この仕事は大変なので、好きでやりたいというのであれば応援しますが、もっと楽な仕事を選んでくれればと思いますね。
大坂 私たちの時代は造っていける世代ですが、次の世代になると補修やリフォームはたくさん出てくるかもしれませんが、造る楽しみがそこまでないかもしれません。そうなると、子どもたちが楽しみや興味を持つかどうか難しいのかな……と思ったことがあります。

―建設業のやりがい―

大愛 みなさん色々な仕事に携わっていらっしゃいますけど、建設業のやりがい、魅力はどんなところだと感じますか。
大坂 完成したものを見ると、地域を支えているような気持になれます。国全体に繋がっていくと思いながら作り上げることが、やりがいに繋がります。
北川 建物を作る中で、学校やお店など普通使っている施設の裏側が見られるということはとても魅力的です。自分の関係していた建物が増えていくので、街づくりに関われているということは、すごく魅力的だと思います。
高嶋 建物を作るということは基本的に楽しいと思います。何にもないところから何かが建つんですから。学生の頃は、現場監督という仕事が実際にどういう仕事なのか分かりませんでした。やってみたら大勢の職人さんが一つの場所で一つの物を作っていく。そういう出会いや人の動きで出来上がる、人を動かすことの魅力があるのかなぁと思います。事務だと毎日同じ人の顔を見て、毎日同じ仕事をしてだと思うのですが、現場はいろんな人に出会えることが、楽しく魅力的だと思います。
高見 ものを作る仕事なので、毎日毎日頑張った分、少しずつできていくのでとても達成感があります。この仕事は、人の命や財産を守っているすごく大事な仕事なんだということを誇りに思っています。

朝日建設(株)
筒井さん
筒井 当社は新設道路を初めから立ち上げるという工事が多いのですが、一人一人が同じ方向を向いて仕事をしないと良い仕事ができないので、それぞれが同じ思いで仕事をして、良いものを作る。そうしてできあがった時、黒々とした舗装道路には感嘆します。それがとても魅力です。
安田 現場は自分一人の力だけでなく、いろんな人の力がどんどん重なり合って物ができるわけであって、ただ「出来ました」ではなくて、自分が携わった仕事を楽しんでほしいと思います。私は最初に担当した現場が今でも一番好きですね。結婚して子どもが生まれたら現場に子どもを連れて行って、「これはママが作った現場よ」と言いたいと思います。若い子には自分のやりがいを見つけて、楽しんで仕事をしてほしいですね。
大愛 そうですよね。私は社長になった5年前、部長に「仕事、楽しんでる?」と聞いたんです。最近になって部長から「仕事が楽しいはずがないのにどうして楽しい?と聞かれたんですか」と言われました。そこで「お金のためだけに仕事をやっているの?楽しいから仕事を続けているんでしょう?」と聞くと、「そうですね、やっぱり魅力のある仕事ですね」と部長は言いました。皆さんにも、ものづくりの仕事や色んな出会いを楽しんでほしいです。

―若者を呼び込むために―

大愛 建設業には色々な魅力がありますが、それでは、若い方々に魅力を伝えて呼び込むためには、どうしたらいいでしょうか。
大坂 私が卒業した学校の就職担当の先生に聞いてみたら、土木の女性は全部現場志向で就職したと聞きました。現場の魅力は、専門性のある勉強をしている学生さんには伝わっていると思います。まだ将来の方向性を定めていない学生さんや生徒たちに対し、学校に出向いて実際の現場の話を聞かせてあげたら学生がもっと興味を持てるのではないかと思います。
高嶋 街を歩いていると工事現場はたくさんあります。男の子だったら小さい頃は重機を見るだけでも楽しいと思うんです。たとえば小学生の時にどこかの工事現場でツアーのような企画をして、工事の工程を見せるだけでも興味が湧くというか、やりたいという意欲に繋がるかもしれません。こういう仕事があるんだなぁということも分かるはずです。
大愛 今年、委員会で夏休みに親子現場見学会を企画しました。学校へのいろんな働きかけも協会で前向きに取り組んでいるところです。ですが、本当に皆さんから言われると説得力がありますね。
高嶋 旧大和跡に建設中の再開発ビルの現場で、囲いの壁面に市民の笑顔の写真を掲載してあるのはとても楽しそうでいいですね。工事現場のイメージアップに繋がると思います。
大愛 建設現場のイメージをもっと良くしないといけないですね。
高嶋 あれだけで現場の雰囲気は全然違うと思います。何ができるんだろうなぁという楽しみにもなりますし、完成した物を見てみたいという創造力にも繋がりますし。とても良い企画だと思います。
北川 高専の土木系女子は現場に行きたいという方が多いのですが、建築系の仕事となると設計やハウスメーカー希望で、現場を希望する方はそう多くはありません。入ってほしいという前に、まず現場のトイレなどの環境を整えることが先だと思います。女性の社員がいて当たり前の環境がいいですね。
高見 労働時間、内容に見合った賃金など、労働条件を改善したうえで、この仕事に興味を持ってもらって入ってきてもらうという流れになればいいと思っています。今は自信をもって、「建設業界はいいよ」とは言えないですね。この仕事は好きでないとできない仕事だと思います。
筒井 若い人たちは建設業に対してあまり良いイメージを持っていないと思います。友人に残業や休日出勤が当たり前の生活をしているというと「そこまで大変なの?」と。この業界は、春は暇なんです。工事を平準化していかないと労働条件は良くならないと思うので、発注機関の意識も変えてほしいですね。発注が平準化されれば残業をしなくてもできる仕事量になります。政府は人手不足解消のために女性に入職してもらおうと考えてるんだと思いますが、実情はそうだということを分かってもらいたいです。
大愛 同感です。女性だけに目を向けていること自体に差別化を感じますね。
筒井 女性だからといって、現場で特別なことをしているわけではないんですよね。
大愛 とても説得力があります。
安田 私は、若い頃は残業を何時間やっても平気でしたが、ほかの人も同じようにできるわけじゃないと気づきました。若い人はそうではない、こういうやり方ではいけないと考えるようになり、若い子が休みたいと言ったら休ませるようにしています。
大愛 そうですよね。当社の若い社員は残業をさせたら辞めていきました。それだけが原因ではなかったのかもしれませんが、指導的立場にいた社員がショックを受けて、「何か悪いことをしたんだろうか」と言っていました。若い社員を育てるつもりでいても、なかなか伝わらなくて辞めていって、辞められたら担当者も落ち込む。今まで何も考えずに残業してきたのはダメだったのかということを考えるようになったと話していました。若い人たちを呼び込むためにも、イメージアップもそうですが、残業しなくてもよい、より良い働き方ができる、そんな環境を整えることが必要ですね。
大愛 本日はどうもありがとうございました。建設業が好きな人は皆さん“熱い”ですよね。その情熱から皆さん良いママにもなれそうな気がします。職場と家庭の両立は難しいかもしれませんが、女性がやりがいを感じながら働ける環境を整えることが、女性の入職をすすめる課題ですね。今日お集まりの皆さん、とても魅力的で、熱い思いで国の安心・安全を支えてらっしゃいます。これからもがんばってください。
●前列左から、高嶋さん、安田さん、大愛副委員長、北川さん
後列左から、高見さん、筒井さん、大坂さん
出席者
●コーディネーター
大 愛 富美子 氏 :桜井建設(株)((一社)富山県建設業協会労務経営委員会副委員長)
●女性技術者(氏名五十音順)
大 坂 泉 美 氏 :(株)嶋田建設工業 (勤続12年:2級土木施工管理技士)
北 川   緑 氏 :近藤建設(株) (勤続5年:2級建築士)
高 嶋 裕 子 氏 :アルカスコーポレーション(株) (勤続10年:1級建築士)
高 見 るみ子 氏 :(株)岡部 (勤続10年:1級土木施工管理技士)
筒 井   恵 氏 :朝日建設(株) (勤続14年 1級土木施工管理技士)
安 田 智 恵 氏 :安達建設(株) (勤続16年 1級土木施工管理技士)
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